マレーシア人が留学しなくなった本当の理由


 今回は、マレーシアについて考察します。マレーシアを紐解くには、まずは「多民族国家」である点に着目すべきでしょう。一般的には、経済成長に伴い、多くの若者が海外の大学や高校での学習機会を求めますが、マレーシアは真逆の変革により経済成長を遂げてきました。

 マレーシアが作り出した、この独自の変革について見ていきます。

 マレーシアの民族構成は、マレー系(約67%、うち先住民族約13%)、 中国系(約25%)、インド系(約7%)となっています。多民族国家を形成し(外務省より)言語は、国語であるマレー語のほか、中国語、タミール語、英語も広く使用されています。宗教をみると、国教はイスラム教(61%)の他、他宗教の信仰も認められており、仏教(20%)、儒教・道教(1%)、ヒンズー教(6%)、キリスト教(9%)などが信仰されています。多様な民族、宗教、生活習慣の融合は マレーシア独特の文化を生み出しています。

 

若者が多いマレーシア

 人口は約3075万人(2016年)で日本の4分の1弱と小規模ながら、年1.8%で増加している(02~12年の年平均増加率)。また、総人口の約55%前後が29歳以下で若者が多いピラミッド型の人口構成となっている。

 

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Source: United Nations, Department of Economic and Social Affairs, Population Division. 

 

タクシー運転手は超ハイスペック!?

 私はいろんな国へ出かけると、まずは空港から市街地へ移動するために乗り込むタクシーを観察します。タクシードライバーの対応、社内の清潔感、運転マナーなど。そこにその国の様子が凝縮されているからです。マレーシアで驚いたのは、タクシードライバーの語学力の高さです。特に華僑のドライバーに遭遇すると、マレー語はもちろん、北京語、広東語、英語まで使いこなすドライバーもいるほど。世界中見渡しても、こんなハイスペックなタクシードライバーに出会うことはないことでしょう。
マレーシア タクシー

 

マレー人優遇のブミプトラ政策

 多民族・多宗教を擁する国家でありながら、近年、マレーシアは民族対立や宗教対立が勃発することなく安定した社会を築いています。この背景には、多民族間の融和を重視した政策が奏功していることに注目する必要があります。

 過去には 1969年5月に、マレー人と華人の間で大規模な衝突が起こり、多くの死傷者を出しています。そこで、1971 年以降、新政策を打ち出しブミプトラ政策とよばれるマレー人優遇政策に舵をとることになりました(ブミプトラとは「マレー人およびその他先住民」を意味する)。同政策は人種・地域間の経済格差解消を目的としたもので、具体的には、マレー人の雇用を促進し、90年までにマレー人による株式資本保有比率を30%(70 年時点では 1.9%)まで高めることを目標としていました。

 実際には、マレー人の資本保有比率は30%に達していないものの、現在では20%弱にまで高まり、雇用面でも専門職・技術職に占めるマレー人が増加し、民族間の格差は縮小しています。しかしその反面、ブミプトラ政策は、生活水準の高い華人の経済活動に多くの制約を与えることになり、優秀な非マレー人の海外への頭脳流出が問題となってきました。

ブミプトラ政策
土着の民とされる「ブミプトラ」(マレー人およびその他の先住民;人口の約 65%)の経済的地位を向上させるための政治的・経済的な優遇策。
…1.教育におけるマレー人優遇
…2.就職におけるマレー人優遇
…3.住居におけるマレー人優遇
…4.銀行融資におけるマレー人優遇
…5.会社経営上のマレー人優遇

 

民族によって通う学校も異なる

 マレーシアの教育年数は、初等教育6年間、中等教育が5年間であり、中等教育の5年間は前期3年、後期2年と分かれます。日本では高校卒業は18歳ですが、マレーシアでいう高校卒業は日本より1年短い17歳ということになります。さらに、特徴的なのが、「学校の授業をこなすだけでは中学・高校の卒業資格を与えてもらえない」という点です。

 日本の小学校にあたる。公立初等教育は、6年間で(Standard1-6あるいはYear1-6といわれる)、公立であれば無償になっています。2003年以降義務教育化されました。国民学校には、マレー系の国民学校(SK:Sekolah Kebangsaan)中華系国民学校(SJK(C):Sekolah Jenis Kebangsaan (Cina) および インド系国民学校(SJK (T):Sekolah Jenis Kebangsaan (Tamil))もあります。この段階から、母国語に合わせて各民族系学校に進学する生徒が多いのです。

 

国策として「頭脳の流出」から「優秀な頭脳の輸入へ」と転換

 かつて1980年頃のマレーシアの高等教育機関は数に限りがあり、海外へ学習機会を依存していました。1986年の統計では、マレーシアは世界第2位の留学生送り出し大国でした。その背景には、ブミプトラ政策によって、押し出された非マレー系の中国系、インド系の若者の多くが私費で海外に進学機会を求め、そのまま海外に移住するケースも珍しくなかったとされています。

 それが1990年代の通貨危機によって、転換期を迎えることとなります 。特に、私立高等教育機関は、学位授与権がない機関でも海外の大学との提携を積極的に推し進めトランスナショナル教育プログラムを導入していきました。マレーシア国内2年と海外の提携先大学に1年間留学する学位プログラム(2+1プログラム)やマレーシア国内で提携先大学のプログラムを提供し、海外留学をしなくても学位が取得可能な(3+0プログラム)などの多様なプログラムを提供され、通貨危機のため留学途中で帰国してきたマレーシア人学生の受け皿となりました。

 海外留学志向のマレーシア人学生にとっても、海外の学位を国内で安価に取得できるというのは大変魅力的です。結果的には、このことが通貨流出の防止だけではなく、優秀な頭脳流出の阻止となりました。これらトランスナショナル教育プログラムは一気に広がりを見せ、1986年には50校しかなかった私立高等教育機関が、2005年には539校と10倍に膨れ上がりました。英語を教授言語とし、IT、工学、ビジネスなど雇用と直結した学位プログラムを提供しています。海外からの留学生にとっても魅力となり、海外からも多くの留学生が集まるようになり、マレーシアは人気の留学先として、また欧米留学のトランジットポイントとして注目されるようになりました(例:2年間マレーシアの大学で学び、2年間欧米の大学で学び欧米の大学の学位を取得する)。

 

マレーシア人の留学先(2014)

 マレーシア人の留学先としては、イギリス、オーストラリア、アメリカが上位を占めます。4位以降では、エジプト(4位)、ヨルダン(7位)とイスラム国も上位に入っています。ユネスコの統計によると、留学者の総数は2010年の79,254人から2014年には56,260人に減少しています。
※この統計には中国、台湾が含まれていない。
マレーシア人の留学先

Source: UNESCO Institute for Statistics. (2016). Global Flow of Tertiary- Level Students 2014.

 マレーシアにいながら、留学そのものの「体験」ができ、安価に「海外の学歴」までも得ることができる。これこそが、マレーシア人が留学しなくなった本当の理由なのです。

 
当掲載内容は、一部において「マレーシアの教育事情-留学生受入れ大国を目指して」秋庭裕子を参考にしています。

 




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