このリスクを知らずにミャンマーに飛び込むべからず 高成長を維持、投資環境は良好だが・・・


JBpress 2015/7/27 11:39      

【引用元:この記事の著作権は、 JBpressに帰属します。】

■市場経済に復帰し、高GDP成長率を維持

ミャンマー連邦共和国は日本の約1.8倍の面積を有し、約5193万人の人口はASEAN諸国10カ国中、5番目の規模となっている。

ミャンマーは、ビルマ族68%、シャン族9%、カレン族7%、ラカイン族4%の他、少なくとも100以上の少数民族を有する多民族国家となっている。また、宗教的には仏教89%、キリスト教4%、イスラム教4%などとなっている(民族および宗教については米CIAの World Factbook による)。

ミャンマーは1962年以降、軍事独裁政権が続いていたが、88年に市場経済復帰を宣言し、外資導入など経済政策を大きく転換した。それ以降、高いGDP成長率を維持している。

従来からミャンマーにおける投資環境は、労働コストが極めて低廉であるという利点を有していた。また、労働人口が豊富であり、天然資源にも恵まれ、さらに高い識字率、勤勉・温和・親日的な国民性など、潜在的な投資環境は良好であった。このような状況の中で、ミャンマーでは2011年3月30日、民政移管が行われ、投資環境はさらに良好なものになっていると言える。

 米国政府も2012年4月4日、経済制裁を段階的に緩和する方針を表明した。また、EUも2012年4月23日、一部項目を除いてミャンマーに対する制裁措置を1年間停止することで基本合意した。現在、日本企業の進出は259社(日本外務省、2014年10月現在)に留まっているが、関心が高まっており、「アジア最後のフロンティア」とも呼ばれている。

しかしながら、ミャンマーにおけるビジネスは、高い自然災害リスク、脆弱なインフラ、未整備な法令制度、テロ、腐敗体質など、数多くのリスクを抱えていると言える。以下、詳しく紹介しよう。

 

■多発するサイクロン、洪水、地震

ミャンマーにおいて、人的被害、被害額共に最大の自然災害リスクは風害(サイクロン)である。サイクロンは通常ベンガル湾で発生し、西進することが多いが、一部がミャンマーに上陸している。2008年5月3日にはサイクロン「Nargis」がエーヤワディ管区およびヤンゴン管区に上陸し、約1週間にわたりミャンマーの人口密集地を直撃。死者8万4537人、行方不明者5万3836人、被害総額13兆チャットに上る甚大な被害をもたらした。

洪水の発生件数も多い。ミャンマーにはエーヤワディ川、タンルウィン川、チンドウィン川、シッタウン川などの大河川があり、洪水のリスクを高めている。

また、ミャンマーは地震の多発地帯でもある。ミャンマー中央部には、南北に走る大規模な断層である「Sagaing断層」(ビルマ中央断層)があり、過去にもM7.0以上の地震が数多く発生している。このSagaing断層は、南はヤンゴン東部のバゴー管区のバゴー県から首都ネピドー、さらには第2の都市であるマンダレーを貫き、中国国境のカチン州まで伸びており、全長1200キロメートルに達する断層帯である。今後、この断層帯で地震が発生した場合には、政治、経済、社会に大きな被害をもたらすことが危惧されている。

その他の自然災害としては干ばつ、山火事、地すべり、高潮、津波なども挙げられる。

 

■インフラはまだまだ整備が遅れている

ミャンマーでビジネスを展開する際の最大の問題が、インフラに関わる問題である。例えば、 World Economic Forum が毎年発表している「Global Competitiveness Report」によれば、ミャンマーのインフラ整備度ランキングは144カ国中138位(2014/2015年)となっており、他の新興国と比較しても、非常に低いことが分かる。

道路網については、2010年にヤンゴンとマンダレーを結ぶ高速道路が開通しているが、それ以外の道路は整備が遅れている。また、道路の舗装率は20%以下とされている。ヤンゴン市内中心部の道路はアスファルト舗装であり、補修も比較的高い頻度で行われ、道路のでこぼこはほとんど気にならないが、ヤンゴンの郊外は舗装はされているものの補修の頻度が低く、道路はでこぼこしている場所が多い。

港湾としてはヤンゴン郊外にヤンゴン港があるが、河川港のため水深が浅く、1万トン以上の船舶は入港できない状況である。そのため、ヤンゴン港で船積みされた貨物は、シンガポールなどで積み替えられ、日本まで輸出される場合も多い。

鉄道網を見ると、ミャンマーは英国の植民地時代・日本軍による占領下の時代に鉄道開発が進められたことから、鉄道の普及率は比較的高い状況である。しかしながら、機関車・線路などは老朽化が進んでおり、ダイヤも不正確であることから、外国人の利用には適さない。

ミャンマーにはヤンゴン、マンダレー、ネピドーの3都市に国際空港があり、地方都市を中心に40以上地方空港がある。ただし、地方空港の多くはターミナル設備などが貧弱である。なお、英国外務省など複数の欧米政府は、ミャンマーの国内航空会社の安全性に問題があるとして、自国民に使用しないように勧告している。

電力については、ミャンマーの発電能力はベトナムの10分の1以下となっており、恒常的に電力不足となっている。そのため、ヤンゴン市内でも1日数時間以上の停電も珍しくない。最も整備されていると言われるミンガラドン工業団地(Mingalardon Industrial Zone)でも停電が恒常的に発生しており、入居企業においては自家発電設備が不可欠とされている。

通信インフラについては、固定電話回線数・携帯電話台数が他のASEAN諸国に比べても極端に少ない状況である。また、回線数が非常に少ないことに伴い、電話料金はアジアの中でも最も高額な国の1つとなっている。

 

■今後、テロが増加する可能性も

国連薬物・犯罪事務所(UNODC:United Nations Office on Drugs and Crime)によれば、人口10万人あたりの殺人事件発生率は日本の約50倍となっている(ただし、ミャンマーの場合、犯罪関連統計が整備されていないこと等の理由によりUNODCが推計として発表しているため、実際以上に高い数値となっている可能性も指摘されている)。

 ミャンマーにおける治安で懸念されるのは、民族問題などに起因した問題である。ミャンマーでは独立(1948年)以来、少数民族によるテロ等の武装闘争が継続している。2012年以降、これら組織と政府との間で和平交渉も進められているが、テロ事件は依然として発生している。

最近では、イスラム教徒であるロヒンギャ族と仏教徒との衝突事件が頻発しており、一部ではイスラム系テロ組織が活動しているとも言われている。今後、テロ事件が大幅に増加する可能性は否定できない。

 

■活動禁止が解かれた労働組合

労務リスク、労務管理問題はどうだろうか。

ベースとなる法令については、1885年に最初に制定されたビルマ法典(全13巻)が適宜改定され、現在でも相当部分が適用されている。

労働法関連では、ビルマ法典第5巻に賃金支払法(1936年ビルマ法第4号)、労働者補償法(1923年インド法第8号)、労働組合法(1926年インド法第16号)、労働紛争法(1929年インド法第7号)などがあり、現在でも適用されている。しかしながら、これら法令はいずれも古く、昨今海外企業の進出が増えている状況にはそぐわないとの指摘が多い。現在はその整備が進められているところである。

ミャンマー政府は2011年10月12日、58条からなる労働組合法を発表した。軍政下では組合活動は禁止されてきたが、労働者の権利を保護し、良好な労使関係を維持するため、1926年制定の労働組合法を改訂する形で公布された。昨今では、労働争議に近い形態で労働者が待遇改善を求める行動に出ることも増えている。

ミャンマーは農村部の住民が全体の約3分の2を占めるとされる。そのため、都市部の労働者の減少は農村部からの流入により解決できると期待されている。しかし、現在でも約5200万人の人口のうち約400万人が近隣諸国で就労しており、十分な労働力が確保されているとは言えない。また、昨今の急激な経済の拡大に伴い、賃上げ圧力が高まっていることにも留意が必要である。

 

■国家の清廉度は175カ国中156位

最後に触れなければならないのが、ミャンマーの政治問題である。

現在のテイン・セイン大統領は清廉な政治家であり、国内外の評価も高い。そのため、今後も現状の政策が堅持されるものと見られる。しかし、現政権の方向性が変更または頓挫するような状況となった場合には、投資環境が急激に悪化する恐れがある。

また、今年中に実施が予定されている大統領選挙において、民主派のアウン・サン・スー・チー氏の立候補要件問題が混沌としており、予断を許さない状況も続いている。

既述の通り、ミャンマーでは1885年にビルマ法典(全13巻)が制定されており、法制度はある程度整備されていると言える。しかしながら、長期間の軍事政権下において、政治・経済・社会の変化に適応していない点も多い。そのため、昨今、急速に法制度の整備が進められている。特に、外国企業については2012年、改正外国投資法が承認され、その後公表されているが、不透明な部分が多いとの指摘もあり留意が必要である。

一方、ミャンマーにおける法制度に関して留意すべき点が、法令開示に関するミャンマー政府の消極的な姿勢である。こうした情報については日々新聞などでチェックする必要があり、細かな法令についてはその都度、政府に照会する必要がある。

ミャンマーでは腐敗問題も深刻である。 Transparency International が毎年発表している腐敗認識指数のランキング(ランキングが下がれば下がるほど腐敗していることになる)においては、175カ国中156位(2014年)となっており、極めて腐敗した国家と評価されている。2011年に民政に移管しているが、1962年以降、現在まで実質的な軍事政権下にあることに変化はない。

また、社会主義体制・軍事政権が長期間にわたっていることから、政府機関の非効率化・汚職体質が蔓延しているとも言われている。そのため、ミャンマーに進出する外国企業にとっては、各種許認可の取得等が煩雑かつ長時間を要する場合も多く、そのことも汚職体質を助長している。

なお、ミャンマーの行政機関の多くで、データ等が電子化されていないことも、行政の非効率化、汚職体質を助長していると言われている。ミャンマー政府は2013年8月、腐敗防止法を制定し、大統領直属の委員会に贈収賄事件の捜査権を与えるなどの政策を実施している。だが腐敗体質が蔓延しているミャンマーでは、その効果は未知数とされている。

(本文中の意見に関する事項については筆者の私見であり、筆者の属する法人等の公式な見解ではありません)

 



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